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長野県建築文化賞

平成25年 第11回 長野県建築文化賞
審査結果

【審査員】
委員長 内藤 廣氏(東京大学名誉教授・内藤廣建築設計事務所)
委員 出澤 潔(長野県建築士会名誉会長・出澤潔建築設計事務所)
委員 関 邦則(長野県建築士会長・(有)関建築とまち研究室)


人が暮らし生き、そして死ぬ場所として設計される住宅は、設計するにあたってもっとも難しいテーマであると思っている。この思いは、3.11以降より強いものになった。30年以上前のことになるが、若い頃、当時90歳近くになっていた故・村野藤吾から、「一度でいいからちゃんと満足のいく住宅をやってみたい」という独白のような言葉を聞いて、とても驚いたのを覚えている。住宅は学生でもそれらしいものは出来るが、突き詰めて取り組めば終わりのない挑戦のようなものだと知った。
その住宅を審査の土俵に上げてアレコレ言うのは、実は苦痛以外の何ものでもない。敷地の状況は違い、建て主の思いも違い、コストも違う。本来、一律には評価できないものである。それぞれ異なる苦闘が在るに違いなく、それぞれそれを乗り越える努力の仕方も違う。これは住宅のみならず、広く一般建築にも当てはまることだと考えている。
さて、前置きが長くなったが、住宅部門で最優秀賞を獲得した「屋根の家」には、強く惹かれるものがあった。まず、最低限、雨や雪から暮らしを守る。単純で分かりやすい構成だ。こういう建物を見ると、難しいディテールや繊細なおさまりなど、建築家が勝手に創り出した妄想なのだ、と思えてくる。これでいいのだ。わたしがこの地方で、自分が暮らすために建物を設計するとしたら、こんな感じになるのではないかと思った。3.11の何もない被災地にも、この建物なら似合うだろう。おおいに共感したので、これを最優秀賞とした。
一般部門については、おしなべて元気のなさを感じた。景気が悪いからといって、建築までそれに歩調を合わせることはあるまい。こんな時代だからこそ、この風土ならではの建物の在り方を力強く打ち出すべきだろう。この地に生きる、その覚悟を空間や建築から感じたかった。今後の健闘を祈りたい。
個別の異なる事情を承知した上で、応募をつのり、賞を差し上げることは、切磋琢磨する場を提供することであるし、これを土台として議論を戦わせることは、建築界の発展には欠かせぬことであると考えている。この意味に於いて、事務局有志の努力はけっして徒労ではないと信じたい。ご苦労様でした。
わたしをはじめとする審査委員の眼力のなさを批判し、酒のつまみにすることも、おおいに結構である。長野県の建築家の士気を鼓舞し高揚するために、甘んじて受けたいと思っている。3.11以降の新しい時代の新しい地方の価値が、ここから生み出されていくことを切に希望したい。
(審査員長 内藤 廣)

一般部門
優秀賞
宮田村こうめ保育園
須永次郎・須永理葉・吉岡寛之・浜田 充

【所在地 宮田村】
この建築への設計者の想いとプログラムが真っ直ぐに実現された秀作。
アクセスデッキを軸として櫛形に配置された保育室+テラスは与えられた敷地条件と気候環境に対応した見事な解答となり、幼児たちに優しい場を創り出した。棟の位置を斜めにずらし格子梁で構成された天井は壁の高さに変化を与え、開口部にも変化を与えている。そして、それらで包まれた幼児たちの場には静かなリズムと楽しさが漂っている。
いつの時にか隣接する老人福祉施設と一体化するプログラムが発想されそれが実現した時、老幼のコミュニケーションが生まれこの建築が一層意味の持つものになるのではないだろうか。(出澤 潔)
優秀賞 高原医院
荒井 洋

【所在地 南箕輪村】
この建築の最大の特徴は、敷地の両サイドに広がる田園とその彼方にパノラマ状に連なるアルプスの美しい山々の景色と対峙しながらデザインされたものであるというところであろう。水平に伸びた大屋根の下に切り取られた開口部から外を見ると、その意図がよく理解できる。塀も視界コントロールの装置となっている。さらに中心に中庭をとって、緑と空を見ることができるように仕掛けられてもいる。小品であるが、外と内が巧みにつながっていて、上品でさわやかな印象を与えてくれる。仕上げ素材や納まりも気配りされており、完成度の高い建築となっている。(関 邦則)
奨励賞 歯科手塚医院
轟 真也・轟 洋子

【所在地 塩尻市】
開放と閉鎖の微妙なバランスがこの建築のデザインの手掛かりになっており、エル型に囲まれたコートヤードが建築的な核になっている。この庭を挟んで対面する面のデザインを変えることによって、コートヤードの表情を作り出しつつ視線のコントロールを試みている。開放性というコンセプトがガラス面の多用という選択を生み出しているように思われるが、レースカーテンによる視線コントロールではなく、建築的にコントロールする別の方法はなかったのかとも思う。全体的に明るく清潔感のある建築となっており、好感が持てる。(関 邦則)
住宅部門
最優秀賞(知事賞)

屋根の家
山田 健一郎

【所在地 高森町】
まさしく屋根の家である。
人の生活は本来、陽の光や雨の下で営まれるものであろう。この作品は、そうした人の生活空間を大きな屋根で覆い、そこでの人の営みのそれぞれのスペースを自由に配置しようとするコンセプトにより実現した作品である。
大屋根の下でこの家族は自由に動き回り、外の生活・内の生活のスペースを固定し、それぞれの場所が創られた。時と共に手が加えられるであろう素朴な材料に囲まれ外と内が一体化したこの住まいは、家族の生活に幅と深みと未来への夢を与えている。
この作品から私達は「住まい」の持つ根源的な課題をあらためて思考することができる。(出澤 潔)
優秀賞 白馬の山荘
仲 俊治

【所在地 白馬村】
自然の真っ只中だからこそ可能な、思い切りの良いアイディアがストレートに形になっている。自然の中に建つ別荘建築というのは、自然から身を守ると同時に自然の一部としてのつながりも求められてくる。ここでは視覚的なつながりというよりも行動体験的なつながりが意識され、透明屋根で覆われた半戸外の「広場」が出現した。つながりだけでは済まないので、遮断の仕方もアイディアに入っている。アイディアが先行しているせいか、広場の具体的な使い方についてやや作為的な印象もあるが、この別荘を建築たらしめている屋根のアイディアに称賛を贈りたい。(関 邦則)
優秀賞 結ぶ小さなコートハウス
林 隆

【所在地 松本市】
市街地の大変厳しい立地条件を克服して設計者の意図が見事に実現していることがこの住まいを体感してよく分かる。
狭小な敷地に設けた中庭は室内空間のそれぞれに接し街に開いている。外の空間である中庭はこの住まいの中心となり、内的空間のようにも感じる。
居間の一部に設けた中間領域としての「個のゾーン」は、家族から隔離した居場所ではなくお互いの中でのそれぞれの居場所となり、暖かさと優しさを持つ空間となった。
皆が寄り集まる場の中にそれぞれの居場所を持つ仕組みは「住まい」にだけでなく「社会」にも必要な事なのかもしれない。(出澤 潔)
奨励賞 小林邸改修工事
倉橋 英太郎

【所在地 木曽町】
伝統的街なみの中に残る古い建物がいつの間にか消えていく時代にあって、テレビの企画とはいえ、このような正統な改修が行われたことは心強い。外部を保持しつつ内部を改修することで街なみとしての時間継続性を保つことに成功している。古い建物を維持していくことが生活面においても、経済的にも、法律的にも、環境面においても難しいことになってきている状況にあって、このような行為は地味ではあるが高く評価されなくてはならないと思う。伝統的な街なみが多く残っている長野県において、住み続ける意思とそれを支える建築士の熱意が大切になる。(関 邦則)
奨励賞 森へ潜る家
鎌田 賢太郎

【所在地 軽井沢町】
傾斜地に建築を建てるということは、とても大変な行為であるが、魅力的でもある。傾斜を利用した変化に富んだ非日常的な空間をつくれるからであろう。この建築はまさにそうしたタイプの好例となっている。高い道路側から見てもその姿は想像しにくいが、軽々と宙に浮くように建つ姿を下から見上げると、野生と同居している建築のように感じる。室内から周囲の森を眺める展望台のようで、浮遊感のある視覚的快楽と精神的やすらぎを感じさせてくれる。自然の生態なども意識しているところは設計者の細やかな気配りが表れていて喜ばしい。(関 邦則)
奨励賞 安曇野の平屋の家
尾日向 辰文

【所在地 安曇野市】
安曇野の丘陵に造られたこの建築は、なんの不満も無くのびのびと育った子供のように実に素直で行儀が良い。
玄関から伸びる建築の軸は洗面所に設けた常念岳を望む大きな開口で開放される。この軸に沿って生活の様々なスペースがその機能とボリュームに従って注意深く配置されている。そして、それらの生活空間を片流れの大きな屋根がばっさりと覆っている。
極めて単純な平面・断面・立面計画は清潔感のある豊かな住空間を創出し設計者の力量を見事に示している。優等生の答案のようなこの建築は全てが納得できて良くできている。(出澤 潔)

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