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長野県建築文化賞

平成23年 第10回 長野県建築文化賞
審査結果

審査委員長 東 利恵
審査委員 出澤 潔
審査委員 関 邦則

今回長野県建築文化賞が第10回を迎えるにあたり、応募の条件枠をひろげて、会員外の応募も可能になり、若い建築家を含め質の高い多くの応募があったことは大変有意義でしたし、刺激になる結果だったのではないかと思います。特徴的であったのは、優良な建築を地元で長年作ってきた方々の作品と新しい世代が長野に移りあるいは戻ってきて、新しい風を吹き込んでいる作品があったということでしょう。
一般部門の最優秀賞の「安曇野市穂高交流学習センターみらい」、優秀賞の「緑のオフィス」、住宅部門の優秀賞「あおいやね」は地元に根付いた建築家が丁寧な仕事をしている点が高い評価うけました。一方で、住宅部門の最優秀の「N邸」は東京から長野に移り住んだ若い建築家の作品であり、彼らは同時に一般部門の優秀賞も受賞しています。日本全体の建築界をみると、若い世代は新たな建築家像を作ろうとしており、「言葉で語ること」も作品の重要な一部ととらえ、また「言葉」が作品をコントロールしている側面もあります。
ネットで瞬時に情報や物がどこにいても手に入る時代に生きる世代にとって、地方と都市といった視点が重要な意味ではなくなってきていることを感じさせる建築ができつつあると実感しました。こういった新しい流れが、高原に建つN邸や優秀賞の木曽の古い集落に建つ「山の中の家」にも感じられ、これからの日本文化が変わっていく予兆でもあるように感じました。(東 利恵)

一般部門
最優秀賞(知事賞) 安曇野市穂高交流学習センター みらい
場々洋介・岡江 正

講評:地域住民が利用できる図書館とホールを主体とした拠点施設が広い敷地にのびやかに建っている様は、安曇野の景観にマッチしていると思います。通り抜けられるエントランスホールを軸に、“静”の図書館と“動”の多目的ホールというメイン機能をバランス良く配置し、外部の交流広場を囲い込みながら隣接公園につなげていくという敷地全体に対するレイアウトが目論み通りの効果を生んでいると感じました。ディテールやテクスチャーに至るまで目配りされており、総合的に完成度が高いと思います。また多くの市民が活用している様子にも好印象を持ちました。(関 邦則)
優秀賞 アネモネ動物病院
矢作昌生

講評:動物病院と住宅という2つの機能を上下に重ねたシンプルな構成ですが、変化に富んだ内部空間がつくり出されています。単純な箱に操作を加えることによって予期せぬ変化を発生させるためのアイディアが、平面をストライプ状にスライスし、各ストライプの屋根勾配を交互に変えるという方法であったのだろうと思います。通常であれば小屋裏となってしまう部分が洞窟のような住宅スペースとなっており、迷路のようなユニークな空間体験を生み出しています。空間の魅力の追求が秘められた主目的であり、機能は副次的に位置づけられているところが面白いと思いました。(関 邦則)
優秀賞 緑のオフィス
山田健一郎

講評:この建築は、写真よりも実物の方がずっとよかった。とくに、力強いコンクリートとアルミのルーバーの構成がほどよいスケール感と繊細さがファサードを作り出していた。中庭側の裏にはかなりの大きさの倉庫があったり、与条件は厳しい部分もあるが、動線をわけ、中庭側に表となる機能空間をもってくることでガラス張りの開放的な1階の空間を作り、2階は光を調整しなければならない条件もありルーバーを用いることで軽快なファサードをうまく作りだしている。とくに、ルーバーは外観の表情を作るだけでなく、内部の執務室側からも光と影のコントロールとしてうまく生かされている。(東 利恵)
奨励賞
宮田村町二地区高齢者支え合い拠点施設
須永次郎・須永理葉・龍光寺眞人・池守由紀子

講評:地域の自治・サークル活動、高齢者の為のディサービス施設が極めてシンプルな空間構成により、爽やかな凛とした場として生まれた。使用者である住民の持つ価値観を受け入れながら作り上げられるであろうこの種の施設は、ともすると旧来の価値観がその場を支配する。住民のためのより良い場作り、シンプルで清潔な空間作りのための白熱した議論を想像した時、住民と設計者の深い理解と信頼感の存在を感じないわけにはいかない。 各室に南の陽を取り込むために建物と駐車スペースを配置したこの計画は当然の帰結とも言えるが、旧街道に面して続く家並みとぽっかり穴の空いたこの駐車スペースとの関係をどう考えたらよいのだろうか。設計者は「地域の歴史性を継承しながら新しい街並みや新しい関係性を作りたい」と述べ、妻面にも正面性を持たせ、キャンティレバーの縁側を街との接点としようとしている。建築の機能性と街並みの関わりについて改めて考える良い機会を戴いた。(出澤 潔)
奨励賞 金子法律事務所
新井精一

講評:法律事務所が持つある種の閉鎖性と開放性を明快な空間分割によって表現している。閉じた個室群、やや開放感のある相談室、100%開放的な事務室・打合せコーナーなど、それぞれの内部空間は外部空間と確かな関わりを持ち見事に配置されている。なかでも事務室は、開かれた都市空間(道路)と閉じた都市空間(中庭)の両面に接し、都市の喧騒と静寂を感じる事務空間として演出された。周到に計画された空間の分割と、各所に見せる深い経験に裏打ちされたディテールは、この建築に言い知れぬ清潔感と一層の安心感を与えている。
余分なものを一切削ぎ取った壁とガラスで構成されたこの建築は、丁寧に計画された植栽、芝で覆われた駐車スペース、深い庇を持つアプローチとテラスなど、建築を取り巻く空間を変質させる装置によって奥行きと豊かさが与えられている。(出澤 潔)
住宅部門
最優秀賞(知事賞) N邸(3つの機能をつなげる大屋根のある住宅)
須永次郎・須永理葉

講評:大草原のど真ん中に建つ小屋とでも言えそうなさり気ない佇まいが、妙に爽やかな

印象でした。そもそも3つの機能がプログラムとなっていたことがこの建築のアプリオリなユニークさなのだろうと思いますが、それを単純な1つのフレームの中にフラットに並べ、サンルームによって分節化するという自然体のデザイン姿勢が“頑張らない”アイディアと芯のある強い構成を感じさせてくれます。結果だけを見れば誰にでも簡単にできそうに見えるかもしれないが、実は決してそうではないということに気づいた時、この住宅の受賞の意義が理解できるのだろうと思います。(関 邦則)
優秀賞 山の中の箱
井口高浩

講評:木曽の豊かな自然の中に突如として舞い降りたような黒い箱は周辺の水田の緑に応答して、妙に新鮮で爽やかな感じを与える。大切に育んできたこの地の景観に挑戦するかのようなこの黒い箱は、その存在感を新たにする。
コンパクトでキューブな家を望んだ建築主に対して、設計者は立方体の中に極めて変化に富む空間分割を行い、夢のような不思議な空間を作り上げた。黒い格子に囲まれたアプローチ、玄関から居住空間への螺旋階段、階段上部のトップライト、さまざまに彩色された室内壁など内部空間を演出する装置は人をいつのまにか自然環境と隔離し地域社会とも隔離されたような「私の空間」に導いている。
木曽に生まれ育った建築主と設計者が共有する自然と距離をとる生活空間への憧れが明確に具現化され、あらためて建築の持つ場所性、建築と自然との応答について私達に課題を与えている。 (出澤 潔)
優秀賞 あおいやね
尾日向辰文

講評:施主の父が大工として作っていた青い屋根の家の記憶を継承したいという思いがこの住宅の外観を作りだしている。昔ながらの土間や座敷(広間)などの農家や商家の空間の記憶がこの家のあちこちに感じられる。家の中心には広間があり、そこから回り込むように階段とスロープで2階につながる。2階は1階から高くなりすぎないように計算され、常に大屋根のつながりが見えるように空間が構成されている。おおらかな空間と適度にさりげなく空間をささえるディテールなど気持ちのよい住宅に仕上がっている。(東 利恵)
奨励賞 本蔵のある家
山田健一郎

講評:何も置かない無機質な空間のなかに身を置いていたいというミニマム志向が強い時代において、溢れるモノに囲まれて暮らしたいという男くさい(?)こだわりに何とも言えない暖かさと懐かしさを感じました。本蔵の井戸のような縦の空間からリビングダイニング及びウッドデッキがつくる横の空間へのつながりがヒューマンなスケールで堅実にデザインされ、居心地のよい住宅という感じが伝わってきます。透けた床の回廊の周囲に本棚を設けるというのは、かつて在籍していた村野、森建築事務所の書庫と全く同じデザインで、個人的に懐かしさを覚えました。 (関 邦則)
奨励賞 重なる柱状の家
林 隆

講評:この住宅の魅力は内部空間の構成にある。家族4人の居場所と関係性をそれぞれの居場所を通常の住宅の機能とは別に作り、この3つの空間を立体的に家の中心にはめこむことで全体の空間のつながり方や独立性を計っている。父、子供、母の各居場所は高さを変えながら、居間に面しており、家族の気配が常に感じられる計画になっている。家族の関係を家がサポートするという空間設計がうまい住宅である。(東 利恵)
奨励賞 抜ける空間を内包する家
小川原吉宏・鳥羽 剛

講評:常念岳を望む風景はこの敷地が持つ特性であり、この特性を最大限に利用したアプローチは建築に奥行きを与えている。アプローチを構成する板塀は、この建築を包む豊かな外部空間をプライベートな部分とオープンな部分とに分割し、個の部分と地域社会との接点の部分とを明確に表現している。
日常的な人の動きが見事に整理され、生活の様子が手にとるように見える平面計画は設計者の力量を示すものであり、ここで生活する家族への深い思いやりを感じることが出来る。
周到な断面計画と温熱環境計画によって生まれた開放的な生活空間は、賑やかな会話が飛び交い健康的で和やかな家族の日常が想像される。子供達の自我意識が成長し大切に思うようになった時、プレイスペースをどう組み立て直すのか、住まいにおける個の空間のあり方など、小住宅が持つ「公の場」と「個の場」について考える時が来るのかもしれない。 (出澤 潔)

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